僕はいつしか、その理由を「田舎だから」という言葉で片づけていました。でも、それは完全に間違いでした。
月商89万円で、ピタリと止まった
開業2年目の6月、ついに月商89万円を記録しました。1年前、プレオープンの半月で6万円しかなかったことを思えば、信じられない数字でした。
「100万円が見えてきた」。パソコンの画面に並ぶその数字を見た時、本当にそう思いました。一人治療院で月商100万円を超えているのは上位数パーセント。やるからには、そこを目指したい。確かな希望がありました。
ところが、何度かチャレンジしても、90万円の壁が越えられないのです。まるで、見えない天井があるかのように。
予約率80%超え、患者さんとの信頼関係も育っていた。
でも、そこから先に進めない日々が続いた。
「田舎だから」という、心地よい言い訳
いつしか僕は、この壁を「田舎の限界」という言葉で説明するようになっていました。
館山市は、千葉県の南端にある小さな町です。人口は当時5万人ほど。競合が少ない代わりに、マーケットも小さい。「これ以上は、この町の規模的に無理なんだ」。そう思えば、なんとなく納得できた気がしていました。
充実感と、でも、これ以上は伸びないのかもしれないな、という静かな停滞感を抱えたまま、この「不思議な壁」を、いつしか「田舎の限界」という言葉で、自分自身に納得させていた。
今思えば、これは非常に「心地よい言い訳」でした。場所のせいにすれば、自分を責めなくて済む。努力しなくて済む理由を、自分で作り上げていたんです。
秋に訪れた、二つの別れ
そんな穏やかな停滞感の中にいた2年目の秋、人生の非情さが前触れもなく訪れました。
10月、義父が急逝しました。JCの委員会に参加している最中、「お父さんが倒れた」という電話。駆けつけた時にはもう、意識が戻ることはありませんでした。倒れてから、わずか数時間後のことでした。
「将来、二人でハーレーに乗ろうな」。そんな約束も、もう果たせない。
僕が心に重く感じたのは、治療家としての後悔でした。義父の体のことが心配で、何度も治療を勧めていた。でも聞き入れてもらえなくて、「本人が本気で来たいと思った時に向き合おう」と逃げていた。その「いつか」は、永遠に来なかった。
そして翌月。高校サッカー部の親友が、癌で逝きました。
立て続けに訪れた大切な人との別れ。その経験が、僕の中に一つの決意を刻みました。
「いつかやりたい」を、自分の人生から、できるだけなくしていこう。
大晦日の夜、兄がくれた公式
悲しみを抱えたまま、2年目の大晦日を迎えました。実家で家族と年越しを過ごす中、今年の経営の話になりました。
一通り僕の話を聞いた後、兄はテレビに目を向けたまま、静かに、しかし鋭く言いました。
「お前は、根本的に売上の仕組みが分かっていない」
前年のような、図星を突かれて何も言えない感覚とは違いました。この1年で経営者として成長した自負があったから、素直に「なるほど」と聞けた。そして兄は、シンプルな公式を教えてくれました。
売上を上げる方法は、あと二つある。単価も頻度も、まだまだだ」
目から鱗が落ちるとは、このことでした。「世の経営者は、こんな風に物事を分解して考えているのか」。シンプルすぎるのに、なぜ今まで気づかなかったのか。
僕がずっと「田舎の限界」と呼んでいた天井の正体が、この瞬間、はっきり見えました。
「田舎の限界」は、幻想だった
僕は、カルテ枚数(新規患者)を増やすことしかやっていませんでした。単価を上げることも、来院頻度を上げることも、ほとんど意識していなかった。
「田舎だから市場が小さい」というのは、その通りかもしれません。でも、それは新規患者の数に影響するだけです。今いる患者さんの単価や頻度は、場所とは関係ない。それを上げる努力を、僕はほとんどしていなかっただけでした。
町や市場のせいではなかった。売上の仕組みの全体像を理解していなかった、自分自身の知識不足が生み出した、ただの幻想だった。
その年の終わり、僕の心にあったのは、満足感と少しの悔しさだけでした。秋の疲労感はもうどこにもなく、新たな作戦が頭の中に広がっていました。
翌年から、「週休2日にして、単価と頻度を上げる仕組みを作る」という明確な目標を持って、3年目をスタートさせることができました。
あなたが「外のせい」にしているものは何ですか?
「田舎だから」「競合が多いから」「景気が悪いから」「患者さんの懐が痛いから」
経営がうまくいかない時、外部の要因を理由にするのは自然なことです。僕もそうでした。でも、その言い訳は、あなた自身の可能性を閉じてしまいます。
一度だけ、この問いに向き合ってみてください。
「自分がコントロールできる数字を、本当に全部やり切っているか?」
カルテ枚数・単価・来院頻度。この3つのうち、あなたが意識して動かしているのはいくつですか?
もし一つか二つなら、あなたにはまだ伸びしろがあります。天井は、外にあるんじゃない。自分の中にある「まだやっていないこと」の中にあります。

