「田舎だから無理」は、自分が作った天井だった

Mind & Business

「田舎だから無理」は、自分が作った天井だった

月商89万円で止まった壁の正体と、大晦日に兄がくれた公式

矢上真吾

矢上 真吾
E-Life 代表 / 鍼灸整体師

2026.03.07

開業2年目、月商89万円まで伸びたのに、そこから先に進めない日々が続きました。何度試みても、90万円の壁が越えられない。

僕はいつしか、その理由を「田舎だから」という言葉で片づけていました。でも、それは完全に間違いでした。

月商89万円で、ピタリと止まった

開業2年目の6月、ついに月商89万円を記録しました。1年前、プレオープンの半月で6万円しかなかったことを思えば、信じられない数字でした。

「100万円が見えてきた」。パソコンの画面に並ぶその数字を見た時、本当にそう思いました。一人治療院で月商100万円を超えているのは上位数パーセント。やるからには、そこを目指したい。確かな希望がありました。

ところが、何度かチャレンジしても、90万円の壁が越えられないのです。まるで、見えない天井があるかのように。

89万円
2年目6月の月商(最高記録)
予約率80%超え、患者さんとの信頼関係も育っていた。
でも、そこから先に進めない日々が続いた。

— ◆ —

「田舎だから」という、心地よい言い訳

いつしか僕は、この壁を「田舎の限界」という言葉で説明するようになっていました。

館山市は、千葉県の南端にある小さな町です。人口は当時5万人ほど。競合が少ない代わりに、マーケットも小さい。「これ以上は、この町の規模的に無理なんだ」。そう思えば、なんとなく納得できた気がしていました。

充実感と、でも、これ以上は伸びないのかもしれないな、という静かな停滞感を抱えたまま、この「不思議な壁」を、いつしか「田舎の限界」という言葉で、自分自身に納得させていた。

今思えば、これは非常に「心地よい言い訳」でした。場所のせいにすれば、自分を責めなくて済む。努力しなくて済む理由を、自分で作り上げていたんです。

— ◆ —

秋に訪れた、二つの別れ

そんな穏やかな停滞感の中にいた2年目の秋、人生の非情さが前触れもなく訪れました。

10月、義父が急逝しました。JCの委員会に参加している最中、「お父さんが倒れた」という電話。駆けつけた時にはもう、意識が戻ることはありませんでした。倒れてから、わずか数時間後のことでした。

「将来、二人でハーレーに乗ろうな」。そんな約束も、もう果たせない。

僕が心に重く感じたのは、治療家としての後悔でした。義父の体のことが心配で、何度も治療を勧めていた。でも聞き入れてもらえなくて、「本人が本気で来たいと思った時に向き合おう」と逃げていた。その「いつか」は、永遠に来なかった。

そして翌月。高校サッカー部の親友が、癌で逝きました。

立て続けに訪れた大切な人との別れ。その経験が、僕の中に一つの決意を刻みました。

「いつかやりたい」を、自分の人生から、できるだけなくしていこう。

— ◆ —

大晦日の夜、兄がくれた公式

悲しみを抱えたまま、2年目の大晦日を迎えました。実家で家族と年越しを過ごす中、今年の経営の話になりました。

一通り僕の話を聞いた後、兄はテレビに目を向けたまま、静かに、しかし鋭く言いました。

「お前は、根本的に売上の仕組みが分かっていない」

前年のような、図星を突かれて何も言えない感覚とは違いました。この1年で経営者として成長した自負があったから、素直に「なるほど」と聞けた。そして兄は、シンプルな公式を教えてくれました。

売上 = カルテ枚数 × 単価 × 来院頻度
「お前が今できているのは、カルテ枚数を増やすことだけだ。
売上を上げる方法は、あと二つある。単価頻度も、まだまだだ」

目から鱗が落ちるとは、このことでした。「世の経営者は、こんな風に物事を分解して考えているのか」。シンプルすぎるのに、なぜ今まで気づかなかったのか。

僕がずっと「田舎の限界」と呼んでいた天井の正体が、この瞬間、はっきり見えました。

— ◆ —

「田舎の限界」は、幻想だった

僕は、カルテ枚数(新規患者)を増やすことしかやっていませんでした。単価を上げることも、来院頻度を上げることも、ほとんど意識していなかった。

「田舎だから市場が小さい」というのは、その通りかもしれません。でも、それは新規患者の数に影響するだけです。今いる患者さんの単価や頻度は、場所とは関係ない。それを上げる努力を、僕はほとんどしていなかっただけでした。

「田舎の限界」の正体

町や市場のせいではなかった。売上の仕組みの全体像を理解していなかった、自分自身の知識不足が生み出した、ただの幻想だった。

その年の終わり、僕の心にあったのは、満足感と少しの悔しさだけでした。秋の疲労感はもうどこにもなく、新たな作戦が頭の中に広がっていました。

翌年から、「週休2日にして、単価と頻度を上げる仕組みを作る」という明確な目標を持って、3年目をスタートさせることができました。

— ◆ —

あなたが「外のせい」にしているものは何ですか?

「田舎だから」「競合が多いから」「景気が悪いから」「患者さんの懐が痛いから」

経営がうまくいかない時、外部の要因を理由にするのは自然なことです。僕もそうでした。でも、その言い訳は、あなた自身の可能性を閉じてしまいます。

一度だけ、この問いに向き合ってみてください。

「自分がコントロールできる数字を、本当に全部やり切っているか?」

カルテ枚数・単価・来院頻度。この3つのうち、あなたが意識して動かしているのはいくつですか?

もし一つか二つなら、あなたにはまだ伸びしろがあります。天井は、外にあるんじゃない。自分の中にある「まだやっていないこと」の中にあります。

矢上真吾

矢上 真吾
合同会社E-Life 代表 / 和からだみなおし処 院長
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格3種)。元Jリーグヴァンフォーレ甲府トレーナー10年 / 臨床23年。千葉県館山市で開業し、開業初年度の経営危機を乗り越えた実体験をもとに、治療家の経営・マインドについて発信しています。

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