売上を上げることと、患者さんを治すことは、同じ方向を向いている

Mind & Business

売上を上げることと、患者さんを治すことは、同じ方向を向いている

「通ってください」が言えなかった本当の理由と、一人の患者さんが教えてくれたこと

矢上真吾

矢上 真吾
E-Life 代表 / 鍼灸整体師

2026.03.11

「売上を上げようとすること」と「患者さんを本気で治すこと」は、対立しない。

僕がそれを理解するまでに、開業から約10ヶ月かかった。ロッカールームで10年間生きてきた治療家が、「お金をもらうこと」を「卑しいこと」だと思い込んでいた話。

Jリーグのロッカールームで身についた「誤解」

10年間、Jリーグのトレーナーとして働いてきた。ロッカールームで選手の体を診て、試合に送り出す。それが僕の仕事だった。

そのキャリアを通じて、僕の中に一つの「当たり前」が刷り込まれていた。

選手は、言わなくても自分から来る。クラブが費用を負担するから、個人のお財布の話はない。お金と治療は、最初から切り離されている。

これが、治療家として「普通」だと思っていた。

患者さんから直接お金をいただくこと。その事実に、僕はどこか「卑しいもの」を感じていた。それが、僕の事業が傾いた本当の原因だった。

— ◆ —

開業して感じた、奇妙な違和感

開業して数ヶ月が経つ頃、僕の中に奇妙な感覚が積み重なっていた。

患者さんは「楽になった」と笑顔で帰ってくれる。技術への自信は日に日に育っていく。なのに、その日の終わりにパソコンへ打ち込む売上の数字が、手応えとはまるで釣り合わない。

なぜか。簡単なことだ。一度来た患者さんに「また来てください」と言えていなかった。言えないというより、言ってはいけないような気がしていた。

「言えなかった」本当の理由

「来てください」と言うことで、患者さんのお金を奪っているような感覚。Jリーグ時代にはなかったその感覚が、知らないうちに僕の口を塞いでいた。

夏に急ブレーキがかかり、8月・9月・10月と売上は下がり続けた。通帳の残高が100万円を切った秋の日、僕は震える手で父に電話した。

— ◆ —

11月16日、兄のたった一言

父に「支出を止めろ」と教わり、なんとか出血は止めた。でも売上の根本は変わっていない。そんな状況の中、突然、兄から連絡が来た。

「海が見たいから、今から館山に行くわ」

父から話を聞いているのかもしれない。でも兄は特に何も聞かず、普通に海を楽しみ、夕飯の席でようやく経営の話になった。

僕は、うまくいかない原因を全部外のせいにして言い訳を並べた。「経験が少ないから」「田舎だから」「患者さんがすぐ良くなるから」「不況だから」。

一通り聞き終えた後、兄はまっすぐ僕の目を見て、静かに言った。

「お前さ、患者さんに『通ってください』って言ってる?」

たった一言。でも僕は、何も言い返せなかった。

図星だった。

そして兄は続けた。「治療家は患者さんを治すのが仕事だろ。本当に治すためには、継続した治療が必要なんだ。だから患者さんは、通った方が良くなるに決まってる」と。

「明日から、来た患者さん全員に『通ってください』と言いなさい」

それだけ言って、兄は嵐のように帰っていった。

— ◆ —

翌朝、最初の患者さんに言えた瞬間

翌日の月曜日、治療院のドアを開けるのが少し怖かった。本当に言えるだろうか。言って、嫌な顔をされたら。

最初の患者さんの施術が終わった。お見送りの時間が来た。

僕は、心臓が飛び出しそうになりながら、恐る恐るこう言った。

僕:「体を本気で良くするためには、継続した治療が必要です。なので、週に一回、ここに通ってください」
「そうですよね! 分かりました! 回数券、買います!」

え?

喜んでいる?

頭をガツンと殴られたような衝撃だった。僕が「卑しいことだ」と思い込んでいた提案は、患者さんにとっては「プロからの、責任ある提案」として、すんなりと受け入れられるものだったのだ。

その日から、来た患者さん全員に、自信を持って伝え続けた。

— ◆ —

10月の3倍。売上が示したこと

その効果は、劇的だった。

3倍
底だった10月比の12月売上
たった一言を変えただけ。技術も、時間も、何も増やしていない。
「言い方」ではなく「思い込み」を変えただけだった。

11月、4ヶ月ぶりに売上が前月を上回った。12月には、ドン底だった10月の3倍近い数字を記録し、経営危機を脱した。

この数字が証明したのは、「売上を上げること」と「患者さんを治すこと」が、まったく同じ方向を向いているという事実だった。

同じ方向を向いている
患者さんが通い続ける
治療が継続される
本当に良くなる

= 売上が上がる

患者さんが通い続けることは、患者さんが良くなることと同義だ。そして、それが売上になる。この三つは、対立しない。最初から、同じゴールを向いている。

— ◆ —

「正直な提案」は、患者さんを守ることでもある

「通ってください」という言葉は、経営のための言葉じゃない。

本当に改善させたいなら継続が必要だ、という治療家としての判断を、正直に伝えることだ。

それを言わずにいることの方が、実は患者さんにとって不親切だと、今は思う。「先生は何も言わなかったけど、通った方が良かったのかな」という気持ちを、患者さんに残してしまう。

Key Insight
「売上のために言う」のではなく「本当に良くなってほしいから言う」。その動機が正しければ、提案は患者さんへの貢献そのものになる。

開業10ヶ月、僕は「卑しい」という思い込みで、患者さんを良くするチャンスを自分から手放していた。

一つの「誤解」を外しただけで、売上は回復した。でも本当の意味で良かったのは、患者さんに正直に向き合えるようになったことだ、と今は思う。

あなたが「言いにくい」と感じている提案は、患者さんにとっては「待っていた言葉」かもしれない。

矢上真吾

矢上 真吾
合同会社E-Life 代表 / 和からだみなおし処 院長
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格3種)。元Jリーグヴァンフォーレ甲府トレーナー10年 / 臨床23年。千葉県館山市で開業し、開業初年度の経営危機を乗り越えた実体験をもとに、治療家の経営・マインドについて発信しています。

Free Consultation
経営のお悩み、一度話してみませんか?
「言えない」「伝えられない」そのお悩み、一緒に整理しましょう

無料相談はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

MENU
ブログを読む毎日更新中 教材を見るサービス一覧