人脈ゼロの館山で、最初にやった3つのこと

Marketing & Practice Growth

人脈ゼロの館山で、最初にやった3つのこと

知人ゼロ・地縁ゼロのまち。元Jリーガートレーナーが泥臭くやり続けた、最初の半年間

矢上真吾

矢上 真吾
E-Life 代表 / 鍼灸整体師

2026.03.16

2014年の年明け、僕は千葉県の南端にある小さな港町に引っ越してきた。知り合いはほぼゼロ。前職のコネクションはまったく使えない。そんな状況から、どうやって最初の患者さんを集めたか。やったことは、呆れるほどシンプルだった。

前提:「ゼロから集客」の現実

Jリーグのトレーナーとして10年間働いてきた。でも、それは「クラブが選手を連れてくる」世界だ。自分から患者さんを集めたことは、一度もなかった。

そのまま妻の地元・館山市に移り、スナック跡地の元テナントで治療院を開業した。2014年2月のことだ。

プレオープンの約半月で来た新規患者さんは17名。売上は6万円。技術的な自信は積み上がっていくのに、パソコンに打ち込む数字が全然追いつかない。

「待っていてはダメだ」。それだけわかっていた。でも、何をすればいいか、まったく知らなかった。

— ◆ —

①自分のバックボーンで、最初の接点を作る

01
Jリーグトレーナーとしての実績を、地域のサッカーで活かす
地域の少年サッカーチームやクラブチームに連絡を取り、練習にお邪魔しては指導者・保護者に頭を下げて回る。夜のフットサルにも参加し、終われば飲み会についていく。

まず動いたのは、唯一の武器であるサッカーの世界だった。10年間Jリーグにいたという事実は、この町では珍しい肩書きになる。それを使わない手はない。

ただ、ここで大事なのは「売り込みに行かなかった」こと。「ヴァンフォーレ甲府でトレーナーをしていた矢上です」と挨拶し、ただ一緒にいる時間を作った。治療院の宣伝は、ほとんどしなかった。

「知ってもらうこと」が先。「来てもらうこと」は後でいい。この順番を守ることが、田舎の人間関係では特に大切だと感じた。

— ◆ —

②経営者の集まりに、片っ端から顔を出す

02
ジャンルを問わず、人が集まる場所に飛び込み続ける
朝は倫理法人会(経営者勉強会)、昼はサッカー場、夜は飲み会。異業種交流会・青年会議所(JC)・政治塾・市の臨時職員(スポーツ推進委員)・サッカー協会……。声がかかった場所には、全部行った。

治療家が通常のマーケティングを考えれば、「ターゲット層を絞る」「SNSで集客する」という話になるだろう。でも当時の僕には、そんな知識もなければ、選ぶ余裕もなかった。

だから、とにかく片っ端から行った。

朝イチで経営者の勉強会に出て、スーツで戻ってきて午前の患者さんを診て、昼に少年サッカーの練習を見に行って、夜はフットサルに参加して飲み会までついていく。僕のスケジュールは、治療院の予約ではなく「人と会う約束」でびっしり埋まっていた。

「とにかく、人に会いまくる」——それだけが、戦略と呼べるものだった。今思えば呆れるほどシンプルだが、当時の僕にできることはそれだけだった。

この行動は確かに成果を生んだ。春から夏にかけて、売上は右肩上がりで伸びていった。人に会った分だけ、患者さんが増えていった。

— ◆ —

③「辞める」と言いかけた場所に、居続ける

03
JCを辞めようとした日に、回数券が売れた
会費の支払いも厳しくなり「辞めようと思います」と伝えに行ったその日、JCの理事長と副理事長が治療院に来て、何も言わず回数券を買っていった。

夏を過ぎた頃、売上の伸びが止まり、通帳の残高が100万円を切った。父に電話して「支出を止めろ」と言われ、あらゆる会合を断ち切ることにした。

一つだけ、どうしても決断できないものがあった。青年会議所(JC)だ。

会費の支払いも厳しい。「辞めようと思います」。そう伝えに行ったまさにその日、JCの理事長と副理事長が治療院にふらりとやってきた。二人とも施術を受けて、お帰りの際、何も言わずに回数券を買っていった。

「これで会費を払えるだろ。だから辞めるなよ」——そう、僕には聞こえた。言葉のない、しかし、あまりにも雄弁なメッセージだった。

結果的に、JCに居続けたことは、その後の経営に大きく影響した。翌年の委員長就任、150名規模の講演会成功、そして今の人との繋がりも、JCを辞めていなければなかったものだ。

「居心地が悪くなった場所」を離れるのは簡単だ。でも、その判断を少し保留してみることで、見えてくるものがある。

— ◆ —

それでも通帳は減り続けた。気づいたこと

正直に言う。この「人に会いまくる」作戦は、売上は上げてくれたが、通帳の残高は一向に増えなかった。

交際費、会費、異業種交流会の参加費……。売上と同じかそれ以上のスピードで、お金が出ていっていた。

¥0
通帳の純増額(春〜夏)
売上は右肩上がり。でも支出も同じペースで増えていた。
「稼ぐ」と「残す」は、まったく別の話だった。

集客のために使ったお金が、集客で得た売上を食い尽くしていた。

「人に会う」こと自体は間違っていなかった。でも、そこに使うお金の管理を完全に忘れていた。この失敗が、後に父から「支出を止めろ」と言われた時の素直さに繋がったと思っている。

集客で学んだ、最も重要なこと

行動量は正義。でも「使ったお金」と「得たお金」を必ず追いかけること。集客コストを管理しなければ、売上が上がっても手元には残らない。

— ◆ —

あなたのバックボーンは何ですか?

人脈ゼロの状態から集客を始める時、多くの治療家はSNSやチラシを思い浮かべるだろう。それは正解の一つだ。

でも僕がまずやったのは、「自分が10年間いた世界」を使うことだった。

サッカーのコネクションは、完全に別の文脈で使えた。Jリーグトレーナーという肩書きが、この小さな町では特別な意味を持った。それは、SNSのフォロワー数や広告費とは関係なく、最初の「顔が見える繋がり」を作ってくれた。

Key Insight
「集客のための何か」を新しく作る前に、あなたがすでに持っているバックボーンを棚卸しすることが先決かもしれない。

スポーツ指導の経験、前職での専門知識、地域活動の実績、特定のコミュニティへの所属……。何かしら「あなたならでは」の接点がある。それを使わない手はない。

あなたのバックボーンは何ですか? まだ使っていないものが、一つくらいあるんじゃないかと思っています。

矢上真吾

矢上 真吾
合同会社E-Life 代表 / 和からだみなおし処 院長
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格3種)。元Jリーグヴァンフォーレ甲府トレーナー10年 / 臨床23年。千葉県館山市で開業し、人脈ゼロの状態からの集客・経営を実体験。治療家の経営・マインドについて発信しています。

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