人口が減り続ける町で一人鍼灸院を続けるためのインフラ経営戦略

「このままだと、売上はどこまで下がるんだろう」
地方で一人治療院をやっている方なら、一度は頭をよぎる不安じゃないでしょうか。
周りの商店は、ひとつ、またひとつと閉まっていく。小学校は統廃合が進み、若い世代の姿もまばらになっていく。
そんな町で、あなたの治療院は、これから10年どうやって続けていきますか?
こんにちは。鍼灸師歴24年、合同会社e-life代表の矢上真吾です。
この記事では、人口が減り続ける地方で、一人鍼灸院を長く続けていくための経営戦略をお伝えします。
僕自身、千葉県館山市で開業して13年。毎年少しずつ人口が減っていく町の現実と、実際に向き合い続けてきました。
「商圏を広げる」「単価を上げる」という一般的な選択肢を取らず、それでも治療院を続けていく。その第三の道について、今日は深くお話ししていきます。
1. 館山市13年の現実|数字で見る人口減少の衝撃

まず、僕がいる町のリアルな数字をお見せします。
人口5万人未満・13年で6,000人減少
千葉県館山市。
- 現在の人口:5万人未満
- 13年前からの減少:約6,000人
- 高齢化率:極めて高い
僕が開業した13年前と比べ、町の人口は明確に減り続けています。
6,000人という数字を想像してみてください。大きな中学校数校分の生徒が、この町から消えた計算です。
小学校10校→ほぼ1校への統廃合
さらに象徴的なのが、小学校の統廃合です。
館山市には、かつて10校ほどの小学校がありました。それが向こう10年で、ほぼ1校に集約されていく見込みです。
小学校が減るということは、若い世代・子育て世代がいなくなっているということ。町の未来の購買層が、静かに消えていっているということです。
日本全体が向かう「地方治療家の共通課題」
これは館山だけの話ではありません。
日本は既に人口減少社会に入りました。総務省統計局のデータを見れば、同じような状況に向き合っている自治体は全国にあります。
地方で開業している一人治療家にとって、「人口減少×高齢化×若年層流出」という三重苦は、もはや例外ではなく前提です。
この前提の上で、どう戦略を組むか。
ここが、これからの地方治療家の分水嶺になります。
2. 多くの治療家が検討する「3つの選択肢」の落とし穴

人口が減っていく町で、治療家がまず考える選択肢は、だいたい3つに集約されます。
選択肢①:商圏を広げる
近隣の市町村、さらに遠方まで集客範囲を広げるやり方です。
SNSやWEB広告を使って、より広いエリアから患者さんを呼ぶ。これ自体は悪い戦略ではありません。
ただ、地方では「移動距離」というハードルが大きい。週1回・月2回の来院となると、片道30分以上の距離は継続率が下がります。
選択肢②:商圏を変える(移転・支店展開)
思い切って、人口の多い都市部に移転する。あるいは支店を出す。
これも一つの選択肢です。ただ、家族の生活・地域とのつながり・固定費の増加を考えると、ハードルは決して低くありません。
特に一人治療家にとって「支店を出す」は、自分の身体が分身できない以上、どこかで職人としてのアイデンティティと衝突します。
選択肢③:単価を上げる
客数が減る分を、一人あたりの単価で補う。
これが最も手軽に見える選択肢です。「高単価×少数精鋭」のモデルは、業界内でも推奨されることが多い。
ただ、ここに僕はずっと違和感を持っています。
3. なぜ私は「単価UP」も「商圏拡大」も選ばないのか
結論から言うと、僕の考える「鍼灸院のあり方」と一致しないからです。
鍼灸院は"町のインフラ"であるべきという思想
僕は、一人治療家・鍼灸院というのは、その町に住んでいる方々の健康を支える存在だと思っています。
どちらかというと、インフラに近い。
電気・ガス・水道のように、生活の根っこで「困った時に頼れる場所」であってほしい。
理想を言えば、本来は鍼灸・あん摩指圧も保険が効くくらいの位置づけであってほしいと、本気で思っています。
予防医療にこそ力を入れるべきで、その対象として鍼灸が採用される日が来れば、地域の健康はもっと底上げできるはずです。
もちろん、これは僕一人でどうにかなる話ではありません。国の医療政策は、むしろ逆方向に向かっている感もあります。
でも、「インフラであるべき」という思想は、僕の経営判断のすべての根っこにあります。
高単価化は"思想との不一致"を生む
インフラ志向と、高単価化は、そもそもベクトルが違います。
インフラは、広く・多くの人に届くことが価値です。高単価化は、限られた少数に深く届けることが価値です。
どちらが正しいかの話ではなく、「僕はどちらをやりたいか」という自己認識の問題です。
僕は、できる限り門戸を広げておきたい。うちの院は実費で1回5,500円前後ですが、これ以上上げるつもりはありません。
「高単価=真剣、低単価=不真剣」は本当か
こういう話をすると、よく言われるのが
「安くしたら、患者さんが真剣に治そうとしなくなるよ」
という意見です。
一部、事実として「高額を払った方が、自分の体に真剣に向き合う」という心理は確かにあります。
でも、それを業界全体の前提にしてしまうと、「お金を払える人しか、ちゃんとケアを受けられない」という構造になってしまう。
僕は、この構造には乗りたくないんです。
これは価格の問題じゃなく、空気感の問題だと思っています。
4. 歯医者の予防広報モデルに学ぶ|空気を変えるという選択
「空気感を変える」と言われても、抽象的に聞こえるかもしれません。
でも、私たちには身近に成功事例があります。
予防歯科が虫歯を減らした実例
歯医者さんは、ここ数十年で「予防」という概念を、国民の中に定着させました。
3ヶ月に1回のクリーニング。歯石取り。フッ素塗布。小さい頃からの歯磨き習慣指導。
これらを「当たり前」として広報し続けた結果、日本の虫歯保有率・歯周病罹患率は、世代を経るごとに下がっています。
「国民の意識が高まった」のではない
ここが重要なポイントです。
国民の意識が勝手に高まって、みんなが予防歯科に通うようになったわけではありません。
歯科業界が、継続的に広報と教育を積み重ねた。だから予防が"当たり前の空気"になった。
意識は広報の結果です。逆ではありません。
鍼灸・治療家業界にも同じことができる
だったら、鍼灸・治療家業界にも同じことができるはずです。
「体を整える」「予防する」「メンテナンスする」。これらを、当たり前の文化にしていく。
高単価化で少数に深く届けるより、広報と教育で業界全体の空気を変えていく。
遠回りに見えて、これが最もサステナブルな道だと、僕は思っています。
そしてこれは、個々の治療家が日々の発信で貢献できる領域でもあるんです。
5. 第三の道|インフラを守りながら経営を続ける2つの戦略

ただし、思想を守るだけでは経営は続きません。
現実として人口が減れば、来院数も減ります。売上が下がっていくのを、手をこまねいて見ているわけにはいかない。
そこで、僕が実践している2つの戦略をお伝えします。
戦略①:本業以外の収入を作る
鍼灸院の売上だけに依存する構造から抜け出す。これが第一の柱です。
具体的には、こんな取り組みを並行して走らせています。
- Podcast・YouTubeでの発信:広告収入と認知獲得
- デジタル教材の制作・販売:ストック型の収益源
- 書籍の出版:著者としての信用と印税
- 一人治療家向けのサポート事業(e-life):同業者向けのコンサルティング
- SNS・ブログでの長期的なファン形成:将来の収益源の種まき
他の収入がしっかり立てば、鍼灸院の単価を上げずに続けられます。
「じゃあ、鍼灸を続ける意味あるの?」
あります。だって、好きだから。
僕にとって鍼灸は、天職であり、自分のアイデンティティの一部です。これを手放したら、他で稼いでも意味がない。
好きなことを続けるためにこそ、他の場所で稼ぐ仕組みを作っておく。
夢はお金が尽きた瞬間、一緒に尽きます。だからこそ、お金を尽きさせない構造を事前に組む。これがポイントです。
戦略②:経費を極限まで軽くする
もう一つの柱が、守りの経営です。
売上が低くても生きていける経営状態を作っておく。
具体的なアプローチはこうです。
固定費の徹底的な見直し
- 家賃・水道光熱費の最適化
- 不要なサブスク・サービスの解約
- 事業とプライベートの支出区分を明確化
合法的な節税の最大活用
- 法人化による所得分散(適正規模なら有効)
- 小規模企業共済・経営セーフティ共済の活用
- 経費計上できるものの見落としを潰す
無理のない範囲での経費圧縮
- 高額な外注から、AI+自力運用への切り替え
- 固定契約から、使った分だけの従量課金への切り替え
極力、身軽な状態で運営する。ふわふわと、風が吹いてもつぶれない状態に仕上げておく。
これは攻めではなく、守りの経営です。
攻めと守り、両輪を回す意味
攻めだけでは、外部要因でゼロになりうる。守りだけでは、成長が止まる。
両方を同時に回すことで、はじめて「地方で一人治療院を長く続ける」ことが可能になります。
特に人口減少時代には、守りこそが死活的に重要だと僕は考えています。
6. 今日から始める3つのアクション
「明日から何をすればいいの?」に、具体的に答えます。
Step 1|固定費の棚卸し(10分)
まず、毎月支払っている固定費を全部書き出してみてください。
- 家賃・光熱費
- 通信費・サブスク
- 外注委託費(HP保守・税理士・予約システムなど)
- 広告費・ツール利用料
- 保険・年金関係
この一覧を見るだけで、「これ、本当に今も必要?」という項目が必ず見つかります。
合計額を出してから、そのうち「減らせそうなもの」を3つ選ぶ。ここからスタートです。
Step 2|本業以外の収入源を1つだけ始める(30分)
複数を一気に始める必要はありません。
自分が続けられそうなものを、たった1つだけ選んでください。
- SNS発信(X・Instagram)
- YouTube・Podcast
- Note・ブログ
- デジタル教材の構想メモ
- 読者メルマガ
今週中に、1つだけアカウントを作り、1つだけ投稿する。
それで十分です。ストック型の収益は、時間をかけて積み上げていく類のものです。
Step 3|地域インフラとしての役割を言語化する
あなたの治療院は、この町にとって、どんな役割を果たしていますか?
これを一度、紙に書き出してみてください。
- どんな人を救っているか
- この町に何を提供しているか
- 自分の院がなくなったら、誰が困るか
この3つを言語化するだけで、日々の発信・接客・経営判断の軸がぶれなくなります。
高単価化に流されない「自分の思想の軸」を、言葉にして持っておく。これが守りの経営の土台になります。
まとめ|人口減少時代の一人治療家の生存戦略
この記事でお伝えしたかったのは、次のメッセージです。
- 人口が減り続ける町で、一般的な選択肢(商圏拡大・単価UP)は万能ではない
- 鍼灸院は町のインフラであるべき、という思想を守る選択肢もある
- 高単価化ではなく「空気感を変える」方向を目指す(歯医者の予防広報モデル)
- 売上減を見越して「本業以外の収入」を育てる
- 同時に「経費を極限まで軽くする」身軽な経営に切り替える
高単価化で売上を伸ばすノウハウは、僕はお伝えできません。やったこともないし、やる予定もないからです。
でも、月100万円規模で、長く・身軽に・好きな仕事を続けていく仕組みなら、僕自身が現役で実験中です。
そのノウハウと経験を、これから少しずつ共有していきます。
地方で一人治療院を続けるために一番大事なのは、"戦わない"という選択肢を持っておくこと。価格競争からも、規模競争からも降りて、自分の思想で経営する。それが長く続く唯一の道だと、僕は思っています。
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矢上真吾について
矢上真吾
合同会社e-life 代表 / 和からだみなおし処 院長
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格3種)
元Jリーグヴァンフォーレ甲府トレーナー10年 / 臨床24年
著書2冊/治療家のAI自立化支援を本気でやっています
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