鍼灸院やマッサージ院の広告には、書いてよいことが法律で決まっています。しかも「これはダメ」という禁止リストではなく、「これだけ書いていい」という許可リストです。だから「この表現はNGですか?」という問いの立て方が、そもそも合っていません。正しい問いは「この表現は、許された項目のどれに当てはまりますか?」です。

このページは、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)第7条と、2025年2月18日のあはき・柔整広告ガイドラインを、一人でやっている治療院の実務の言葉で整理したものです。条文と原文は、すべて出典を付けています。

先に結論だけ書きます。
看板とのぼりは広告です。ホームページとSNSは、原則そうではありません。
分かれ目は「ネットかどうか」ではなく、お金を払って出したかどうかです。

1. 書いてよいのは、5つだけ

あはき法第7条第1項は、こう書いてあります。

あん摩業、マツサージ業、指圧業、はり業若しくはきゆう業又はこれらの施術所に関しては、何人も、いかなる方法によるを問わず、左に掲げる事項以外の事項について、広告をしてはならない。

— あはき法 第七条第一項(e-Gov法令検索

「左に掲げる」は縦書き前提の言い方で、いまの横書きでは「下に挙げた」という意味です。その5つがこれです。

条文かみくだくと
施術者である旨並びに施術者の氏名及び住所誰が施術するのか
第一条に規定する業務の種類あん摩マッサージ指圧・はり・きゅうのどれをやるのか
施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項院の名前・電話・場所
施術日又は施術時間いつ開いているか
その他厚生労働大臣が指定する事項告示で足された9項目(下記)

五号の「告示で足された9項目」

第五号を受けた告示(平成11年3月29日 厚生省告示第69号/平成28年6月29日改正)が、次の9つを足しています。

  1. もみりようじ
  2. やいと、えつ
  3. 小児鍼(はり)
  4. あはき法第9条の2第1項前段の規定による届出をした旨
  5. 医療保険療養費支給申請ができる旨(申請には医師の同意が必要な旨を明示する場合に限る
  6. 予約に基づく施術の実施
  7. 休日又は夜間における施術の実施
  8. 出張による施術の実施
  9. 駐車設備に関する事項

合計で14項目。広告に書けるのは、この14個がすべてです。

2. 「うまさ」と「経歴」は、書けません

第7条には第2項があります。氏名・業務の種類・院名を書くときでも、その内容が技能・施術方法・経歴に及んではならない、というものです。ガイドラインはここを「一切認められない」と言い切っています(Ⅳ-1(2)、p.20)。

禁止類型ガイドラインが挙げた例
技能・施術方法胸部疾患の灸/慢性病の根本治療/難病治療の専門/慢性疼痛治療/高い技術/唯一の技術/○○流指圧/痛くない鍼/気持ちの良いお灸
経歴○○養成校卒業後 中国○○大学にて学位取得/○○先生に師事/米国公認○○資格/○○学会会員/○○(有名人)のトレーナー

プロフィールに書きたくなることが、まるごと禁止類型に入っています。ここが、多くの院がつまずくところだと思います。

3. そもそも、どこからが「広告」なのか

第7条は「広告」にだけかかります。何が広告かは、3つの要件を全部満たすかで決まります(ガイドライン Ⅱ-1、p.5)。

要件中身
① 誘引性利用者を施術所に誘引する意図があること
② 特定性施術者の氏名または施術所の名称が特定できること
③ 認知性一般人が認知できる状態にあること
広告の3要件(誘引性・特定性・認知性)のフローチャート
3つ全部そろって、はじめて「広告」になります

ひとつでも欠ければ、第7条はかかりません。この構造を知ると、直感と逆の結論になります。

媒体別に見ると、こうなります

媒体広告か理由
自院のホームページ原則ちがう見る人が自分でURLを打つか検索してたどり着く=③認知性を満たさない(Ⅱ-6(6) p.10/Ⅵ-1(1) p.31)
SNSの書き込み原則ちがう③認知性は満たすが、それだけでは足りない。①誘引性・②特定性もそろって初めて広告(Ⅵ-1(1)イ、p.31-32)
リスティング広告・バナー広告あたるしかもリンク先のホームページも一体として広告扱い(Ⅵ-1(1)ア)
施術所紹介サイトの掲載ページあたる掲載料を払っているもの
院内で掲示・配布するパンフレットちがう受け手が来院者に限られる=①誘引性なし(Ⅱ-6(4)、p.10)
求めに応じて送る資料・メールちがう特定の人への情報提供=③を満たさない(Ⅱ-6(5)、p.10)
学術論文・学会発表ちがう①誘引性なし(Ⅱ-6(1)、p.9)
新聞・雑誌の記事ちがうただし記事広告はあたる。費用を払って書いてもらえば①が立つ(Ⅱ-6(2)、p.9)
媒体別マップ。広告にあたるものと、あたらないもの
ガイドラインが広告として名指ししたものは、すべて出稿にお金がかかるものでした

本指針Ⅱの6(6)のとおり、原則としてウェブサイト等は、あはき師法、柔整師法の規制対象となる広告には該当しない。もっとも、以下のアからウのように、本指針Ⅱの1に掲げた①から③までの要件を満たすものについてはこれに該当し(略)
イ SNS での書き込み等
(略)公開範囲が限られていない場合には、公開時から一般人が認識可能な状態であることから、本指針Ⅱの1に掲げた①から③までのいずれの要件も満たす場合には、広告として取り扱うこと。

— あはき・柔整広告ガイドライン Ⅵ-1(1)(p.31-32)

「SNSは広告だ」と読み違えやすいところです。イが言っているのは「③が埋まる」までで、①と②もそろって初めて広告になる、という話です。

のぼりは、広告です。院の外に立てて、通りがかりの人が読める状態にあり、院名が入っている。3要件が全部そろいます。私は自分の院ののぼりが違反していることに、教材を出した後で気づきました。毎日その横を通っていたのに、読んでいませんでした。

4. 院名で引っかかるところ

ガイドラインは、施術所の名称について3つの条件を示しています。国家資格保有者によるあはき・柔整の業態であること、法令に基づき都道府県に届けられ適法であること、医療機関と紛らわしい名称を用いていないこと。

可否
書ける業態を特定せずに「施術所」「施術院」と表記(○○施術所、○○施術院)/提供する施術業態に「治療院」「治療所」を付ける(○○鍼灸治療院、○○鍼灸治療所)/施術所が併設されている場合の併記(○○接骨院・鍼灸院)
書けない病院・診療所と誤解する恐れがあるもの(○○治療所、メディカル、クリニック、リハビリ)/対象者を限定するもの(女性専門療院、交通事故専門、アスリート)/施術内容・技能・方法を含むもの(不妊鍼灸、背骨専門、無痛治療、電気療法)/効能を含むもの、優良と思わせるもの(姿勢改善、小顔矯正、背骨矯正、巧み)

業態を付けずに「治療院」だけにすると病院と紛らわしいので不可。業態を付けて「鍼灸治療院」なら可。そういう線引きです。

「診」が入るものは、全部だめです

施術日・施術時間の項目に、広告不可能な事項の例として挙がっています。

  • 診療、診療日、診療時間、診療中と表記すること
  • 診察、診察日、診察時間、診察中と表記すること
  • 休診日、初診、再診、往診と表記すること

「診」が入るものは医科と紛らわしいので不可。往診ではなく往療、と言い換える形になります。初診も再診も、書けません。

電話番号にも例が挙がっています。技能を暗示する語呂合わせのルビ──数字に「痛みなし」「みな治る」といった読みを当てるもの──も不可です。開設届については、書けるのは「○月○日 ○○県 開設届出済」まで。厚生労働省認定、都道府県知事認可、指定といった表記は不可です。あくまで届出であって、認可でも指定でもないからです。

5. 違反したら、どうなるのか

条文上の罰則はこうです。

違反罰則
広告規制違反30万円以下の罰金
無資格・無届の医業類似行為50万円以下の罰金
守秘義務違反50万円以下の罰金(被害者の告訴がある場合に限る親告罪)
業務禁止命令違反50万円以下の罰金

ただし、いきなり罰金になるわけではありません。ガイドラインは4段階を定めています。

  1. 任意の調査 違反広告を発見した場合、まず施術者等に説明を求める等の調査を行う
  2. 行政指導 広告の中止や是正を、訪問・電話・文書等により求める。目安の是正期間を設ける
  3. 報告の徴収 指導後、一定期間を経過しても是正がなければ報告書の徴収等(あはき法第10条第1項)
  4. 告発 刑事訴訟法第239条第2項により告発を検討する

指導とは、広告の違法性を指摘し、是正に導くことであり、是正案を提示し、時間を経て結果を評価するまでをいう。指示するのみであったり、指導の時点で排除を目的としてはならない。

— あはき・柔整広告ガイドライン(指導の定義)

告発が検討されるのは、中止・是正の行政指導に従わない場合、違反広告を繰り返す場合、報告を怠るか虚偽の報告をした場合と明記されています。裏を返せば、一度指摘を受けて直せば、そこまでは来ないということです。

怖いのは、罰金の「その先」です

罰金刑に至った場合、話は30万円では終わりません。ガイドラインには、罰金刑に至った施術者については受領委任協定または契約違反となるため、管轄の都道府県・地方厚生局に通知を行うと書かれています。療養費の受領委任の取扱いに直結します。刑事告発等を実施した際に、必要に応じて事例を公表する、という項目もあります。

そしてあはき法は、免許の欠格事由として、罰金以上の刑に処せられた者には免許を与えないことがある、と定めています。看板の文字の話が、療養費と免許の話までつながっています。

あはき法の罰則一覧
罰則の一覧

6. ただ、本当に手前にあるのは「届出と実態のズレ」です

ここまで広告の話をしてきましたが、私が法人成りで実感したのは、もっと手前の話でした。届出の内容と、いまの実態が合っているか。これに尽きます。

私はそこがずれていました。届出には鍼灸マッサージと書いてある。でも看板には整体と入っている。自分がやっていることと、届け出していることが違っていました。施術所を開設した者は開設後10日以内に届け出ることになっていて、届出内容が変わったときも同じです。変更届は抜けやすいところだと思います。

7. もっとくわしく

それぞれの話は、記事に分けて書いています。

全60条を、通しで読めるようにしました

このページで扱ったのは、第7条とガイドラインだけです。あはき法は本則と附則あわせて60の条があり、届出(第9条の2)、構造設備(第9条の5)、医業類似行為(第12条)など、開業に直結する条文がほかにもあります。それを1条ずつ、一次資料から逐条で読めるようにしたのが『あはき法の教科書』です。

113レッスン・約3時間44分。条文は e-Gov、ガイドラインは厚生労働省の原文から引いています。買い切り ¥2,980。

あはき法の教科書を見る

このページについて。条文は e-Gov法令検索(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律/現行版 322AC0000000217_20250601_504AC0000000068、施行日 2025-06-01)、指針はあはき・柔整広告ガイドライン(令和7年2月18日)の原文から引いています。法律名の「マツサージ」「きゆう」は、促音・拗音を大文字で書く法律上の正式表記です。

ここに書いたのは条文とガイドラインの記述であって、個別の看板・広告が違反にあたるかどうかの判断ではありません。実際の可否は、必ず所轄の保健所にご確認ください。解釈が分かれる部分や、都道府県ごとの運用差があります。